モザイク胚移植を検討されている患者さまへ
PGT-A検査の結果で「モザイク」という言葉を聞かれた患者さまから、「これは一体何なのでしょうか?移植しても大丈夫なのでしょうか?」というご質問を多くいただきます。
今回は、モザイク胚について、できるだけ分かりやすくお説明し、移植を検討される際の判断材料として情報を記載したいと思います。
1. モザイク胚とは何ですか?
簡単に言うと モザイク胚とは、正常な細胞と染色体に異常のある細胞が混じっている胚のことです。
具体的な例で説明すると
- ・検査した細胞の20%に染色体異常 → 80%は正常
- ・検査した細胞の30%に染色体異常 → 70%は正常
- ・検査した細胞の40%に染色体異常 → 60%は正常
このような状態を「モザイク」と呼びます。
なぜモザイク胚ができるのか? 受精卵が分割を繰り返す過程で、一部の細胞に染色体の数の異常が起こることがあります。これは珍しいことではなく、年齢に関係なく起こる可能性があります。
2. 検査結果の見方
報告書に書かれている数字の意味
モザイク率 | 意味 | 移植の可能性 |
---|---|---|
20-30% | 軽度モザイク | 検討可能 |
30-50% | 中等度モザイク | 慎重に検討 |
50%以上 | 高度モザイク | 推奨しない |
重要なポイント
- ・この数字は検査した一部の細胞の結果です
- ・胚全体の状態を完全に反映しているとは限りません
- ・胚の他の部分では異常細胞の割合が異なる可能性があります
3. モザイク胚移植の成績(実際のデータ)
妊娠率
- ・正常胚移植:約60-70%
- ・モザイク胚移植:約45-55%
- ・異常胚移植:約10-20%
流産率
- ・正常胚移植:約15-20%
- ・モザイク胚移植:約25-35%
- ・異常胚移植:約80-90%
生まれた赤ちゃんの健康状態 モザイク胚移植で妊娠・出産された場合の90%以上で、赤ちゃんは健康に生まれています。
4. 移植を検討する際の医学的基準
移植をお勧めできる場合
- ・モザイク率が20-40%程度
- ・他に移植可能な正常胚がない
- ・患者さまの年齢が比較的高く、採卵の負担を避けたい
- ・十分な説明を受けて、リスクを理解されている
移植をお勧めしない場合
- ・モザイク率が50%を超える
- ・移植可能な正常胚が他にある
- ・患者さまが不安を強く感じられる
5. 移植前に行う追加検査
出生前血液検査(NIPT) モザイク胚移植で妊娠された場合、妊娠10週頃から出生前血液検査をお勧めします。
- ・目的:主要な染色体異常(21、18、13番染色体)のスクリーニング
- ・結果:約1-2週間で判明
出生前血液検査で異常が疑われた場合 より詳しい確定診断のために、羊水検査等の精密検査をご案内します。
胎児ドック(エコー検査) 妊娠初期から中期にかけて、詳しいエコー検査を行います。
- ・目的:赤ちゃんの発育状況を詳しく確認
6. よくある質問と回答
Q: モザイク胚から生まれた子どもに将来的な影響はありますか?
A: 現在までの国内の追跡調査では、健康に生まれた子どもたちに特別な問題は報告されていません。ただし、長期的な追跡は今後も継続されます。
Q: 移植を決めたら、妊娠中に何か特別なことをする必要がありますか?
A: 通常の妊娠管理に加えて、出生前血液検査と詳しいエコー検査をお勧めします。それ以外は一般的な妊娠と同じです。
Q: モザイク胚移植で妊娠しなかった場合、次回はどうすればよいですか?
A: 他にモザイク胚がある場合は再度移植を検討できます。ない場合は再度の採卵をお勧めします。
7. 意思決定のためのチェックポイント
移植を検討される際は、以下の点を確認してください:
- [ ] モザイク率と移植成績について理解している
- [ ] 出生前血液検査で異常がある場合は羊水検査等をおこなうことについて理解している
- [ ] 他の選択肢(再採卵等)について十分検討した
- [ ] パートナーと十分に話し合った
- [ ] 経済的な負担について確認した
- [ ] 不安な点について医師に質問した
8. 最後に
モザイク胚移植は、決して簡単な選択ではありません。しかし、正しい知識と十分な検討をもとに決断されれば、多くの患者さまにとって希望の光となり得る選択肢です。
大切なのは:
- ・十分な情報を得ること
- ・疑問点をすべて解決すること
- ・パートナーと価値観を共有すること
- ・医師と信頼関係を築くこと
ご興味や不安なことがございましたら、ご来院の際にお気軽にご相談ください。