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夫婦染色体検査のおすすめ、効果について

「何度も流産してしまう…」「良好な胚を移植しても着床しない…」「検査をしても原因がわからない…」

そんなお悩みを抱えていらっしゃる患者さまは、決して少なくありません。

不育症、反復着床不全、難治性不妊 ― これらの原因の一つに、ご夫婦の染色体に構造的な変化があることがあります。今回は、なぜ夫婦染色体検査が大切なのか、そして検査を受けることでどのような道が開けるのかをご説明いたします。

1. 不育症・反復着床不全・難治性不妊とは

不育症

妊娠はするものの、流産や死産を2回以上繰り返すことを不育症といいます。3回以上の流産を繰り返す場合は「習慣流産」と呼ばれます。

流産の頻度

  • ・1回の流産:妊娠した方の約15%が経験
  • ・2回連続の流産:約2~3%の方が経験
  • ・3回連続の流産:約0.5~1%の方が経験

反復着床不全

体外受精において、良好な胚を2回以上移植しても妊娠に至らない状態をいいます。40歳未満の方が良好な胚を4回以上移植した場合、通常80%以上の方が妊娠されるといわれていますので、繰り返し着床しない場合には何らかの原因が隠れている可能性があります。

難治性不妊

一般的な不妊治療を行っても妊娠に至らず、原因の特定が難しい不妊症を指します。

2. なぜ染色体検査が必要なのでしょうか

染色体異常が関わる不育症・不妊

流産の原因のうち、約60~80%は胎児(赤ちゃん)の染色体異常によるものです。これらの多くは偶発的に起こるものですが、繰り返し流産される場合や着床しない場合には、ご両親の染色体に原因がある可能性があります。

ご夫婦の染色体異常の頻度

  • ・一般の方:約0.2%(500人に1人)
  • ・2回流産を繰り返す方:約2~5%
  • ・3回以上流産を繰り返す方:約4~8%(習慣流産では約5~10%)

つまり、流産を繰り返すほど、あるいは着床不全を繰り返すほど、ご夫婦の染色体に何らかの変化がある可能性が高くなります。

3. どのような染色体異常があるのでしょうか

均衡型相互転座

染色体の一部が別の染色体と入れ替わっている状態です。遺伝子の量としては正常なため、ご本人は全く健康で日常生活に支障はありません。しかし、卵子や精子が作られる過程で、お子さまに染色体の不均衡が生じる可能性があります。

ロバートソン型転座

特定の染色体(13番、14番、15番、21番、22番)同士がくっついている状態です。こちらもご本人は健康ですが、お子さまに染色体異常が起こる可能性があります。

逆位

染色体の一部が逆さまになっている状態です。多くの場合、日常生活には支障ありませんが、お子さまへの影響を考慮する必要があります。

ここで大切なこと
これらの染色体の変化は、ご本人には何も症状がなく、検査をしなければわかりません。そして、たとえ変化があっても、適切な治療により健康な赤ちゃんを授かることができる可能性は十分にあります。

 

4. 検査をお勧めする方

以下に当てはまる方には、夫婦染色体検査をお勧めいたします。

 ☑ 2回以上の流産を経験された方
 ☑ 2回以上良好な胚を移植しても着床しない方(反復着床不全)
 ☑ 長期間の不妊治療で妊娠に至らない方
 ☑ 過去に染色体異常のお子さまを妊娠・出産された経験がある方
 ☑ ご家族に染色体異常の方がいらっしゃる方
 ☑ 流産胎児の染色体検査で構造異常が見つかった方

 

5. 夫婦染色体検査の実際

検査の方法(G-band法)

項目 内容
検査方法 採血(5~10ml)
検査対象 ご夫婦おふたり
結果判明 約2~3週間
痛みや負担 通常の採血と同じです

末梢血(静脈血)中の白血球から染色体を取り出し、Gバンド法という特殊な染色を行って染色体の数や構造の異常がないかを調べます。

結果の告知について

検査結果はご夫婦同席でお伝えいたします。ご希望に応じて、以下の2つの方法からお選びいただけます。

方法① それぞれの結果を開示して聞く
どなたに染色体の変化があるかを含めて、詳しくご説明いたします。

方法② どちらの染色体に変化があるかを開示せずに聞く
ご夫婦のどちらかに変化があるということのみをお伝えし、どちらかは特定せずにご説明いたします。

不育症の診療においては、ご夫婦どちらの異常であるかを特定することに臨床的な意味は限定的であり、特に必要な場合を除いてどちらの異常であるかを明らかにしないという選択肢もあります。

 

6. 検査で染色体異常が見つかった場合

心配しすぎないでください

染色体の変化が見つかっても、悲観する必要はありません。

相互転座をお持ちのご夫婦の場合

  • ・診断後の初回妊娠で約32%の方が出産に至っています
  • ・累積的には約68%以上の方が自然妊娠により出産可能という報告があります
  • ・最終的には約7割のご夫婦が元気な赤ちゃんを授かることができるとされています

治療の選択肢

選択肢① 自然妊娠を続ける
正常な染色体の卵子・精子も一定の割合で発生するため、自然妊娠で出産に至る可能性があります。

選択肢② PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)を受ける
体外受精で得られた胚の染色体を調べ、ご両親の染色体異常の影響を受けていない胚を選んで移植する技術です。

7. PGT-SR検査について

PGT-SRとは

着床前胚染色体構造異常検査(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangement)の略称です。体外受精により得られた受精卵の一部を取り出して染色体を検査し、均衡型の胚のみを選んで移植することで流産を防ぐ技術です。

適応となる方

  • ・ご夫婦のいずれかに染色体の構造異常(相互転座、ロバートソン型転座、染色体腕間逆位など)がある方
  • ・構造異常があるご夫婦の場合、妊娠・流死産の既往の有無は問いません

PGT-SRに期待される効果

 ✓ 流産率の大幅な低下
 ✓ 妊娠までの時間短縮
 ✓ 精神的・身体的負担の軽減

ただし、PGT-SRにより流産率は低下するものの、最終的な生児獲得率については自然妊娠と同等という報告もあります。そのため、ご夫婦の価値観やご状況に合わせて、治療方針を一緒に考えていきましょう。

8. 流産胎児(絨毛)染色体検査の重要性

なぜこの検査が大切なのか

流産された場合、胎児(絨毛)の染色体検査を行うことで、流産の原因を明確にすることができます。

流産原因の内訳

  • ・胎児側の原因(主に偶発的な染色体異数性):約70~80%
  • ・母体側・父体側の原因:約20~30%

検査結果による今後の方針

胎児の染色体が正常だった場合
母体側に原因がある可能性があるため、追加の検査や治療を検討します。

胎児に偶発的な染色体異常(数の異常)があった場合
今回の流産は偶発的なものと考えられ、次回妊娠に向けた一般的な準備を進めます。

胎児に染色体の構造異常があった場合
ご夫婦のどちらかに同様の構造異常がある可能性があるため、夫婦染色体検査をお勧めします。

心理的な意味

「自分のせいで流産したのではないか」という自責の念から解放され、前向きに治療に取り組める方も多くいらっしゃいます。原因を知ることは、次への一歩を踏み出すための大切なプロセスです。

2022年4月より、流産絨毛染色体検査は2回目以降の流産から保険適用となっています。

9. 検査の流れ

Step 1: ご相談・カウンセリング
    ↓
Step 2: ご夫婦の染色体検査(採血)
    ↓
Step 3: 結果説明(約2~3週間後)
    ↓
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Step 4A: 異常なし                    Step 4B: 異常あり
他の原因の検索                        遺伝カウンセリング
一般的な不妊治療                      治療方針のご相談
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                              自然妊娠を        PGT-SR検査
                              継続する          を選択する

10. 費用について

検査費用の目安

検査項目 費用目安 保険適用
夫婦染色体検査(二人) 約3~4万円 条件により一部適用
流産胎児染色体検査 約3~6万円 2回目以降の流産で適用
PGT-SR検査 約7~35万円 ×
体外受精費用 約30~60万円 ○(条件あり)

助成制度について

  • ・自治体によっては不育症検査の助成制度があります
     (2回以上の流産・死産の既往がある方を対象とした不育症検査助成事業など)
  • ・体外受精の保険適用により、経済的負担が軽減されています

詳しくはお住まいの自治体にお問い合わせください。

11. よくあるご質問

Q: 染色体の異常は治療できますか?
A: 染色体の変化そのものを治療する方法は現在ありません。しかし、PGT-SRによって正常な染色体を持つ胚を選んで移植することで、流産のリスクを減らすことが可能です。

Q: 検査結果は夫婦のどちらに異常があるか、必ず教えてもらえますか?
A: ご希望に応じて選択できます。不育症の診療においては、どちらに異常があるかを特定しない形で結果をお伝えすることも可能です。事前に希望をお伝えください。

Q: 親から受け継いだ染色体異常の場合、兄弟姉妹にも影響がありますか?
A: 均衡型転座の多くはご両親から受け継いでいるため、兄弟姉妹にも同様の変化がある可能性があります。検査を受ける前に、結果がもたらす意味についてよく考えてからお受けください。

Q: 検査結果が出るまでの間、妊娠を試みても良いですか?
A: はい。検査結果が出るまでの2~3週間、妊娠を控える必要はありません。

Q: 年齢制限はありますか?
A: 染色体検査に年齢制限はありません。PGT-SR検査も年齢による制限はありませんが、卵子の質を考慮して治療方針を決定します。

12. 検査を受けるタイミング

最適なタイミング

  • ・流産後、体調が回復してから
  • ・次回妊娠の準備を始める前
  • ・体外受精治療を本格的に始める前
  • ・複数回の着床不全を経験された後

検査の緊急性について

染色体検査自体に緊急性はありません。しかし、早めに原因を明らかにすることで、適切な治療方針を早期に決定し、貴重な時間を有効に使うことができます。

一歩前進するための検査

繰り返す流産や着床不全は、身体的にも精神的にも大きなご負担となります。「なぜ私だけ…」「何がいけないのだろう…」と、ご自身を責めてしまう方も少なくありません。

しかし、原因を明らかにすることで、次への道筋が見えてきます。

大切なポイント

  • ・染色体検査は原因究明の第一歩です
     原因がわかれば、最適な治療法を選択できます。

  • ・結果に関わらず、治療の選択肢はあります
     染色体の変化があっても、多くのご夫婦が赤ちゃんを授かっています。

  • ・一人で悩まず、医師と一緒に解決策を探しましょう
     まずは相談からでも構いませんのでお声がけください。

  • ・検査を受けることで、心の整理がつくこともあります
     「原因不明」のまま治療を続けることの辛さから解放される方も多くいらっしゃいます。


ご関心をお持ちいただけましたら、診察の際にお気軽にご相談ください。

ご夫婦のお気持ちに寄り添いながら、最適な治療への道筋を一緒に考えてまいります。