妊娠を希望される方へ|甲状腺疾患と妊娠に関する最新ガイドライン
不妊治療を受けていらっしゃる方の中には、甲状腺の病気を併せ持っている方が少なくありません。不妊治療中の約10人に1人が甲状腺機能に何らかの異常があるとされています。
甲状腺の病気があっても、適切な治療を続けることで妊娠・出産は十分に可能です。
ただし、妊娠中は治療方法に一部変更が必要な場合がございますので、妊娠を希望される方、また現在妊娠中の方に向けて、甲状腺疾患の治療に関する最新のガイドラインについて説明いたします。
甲状腺とは?
甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある、蝶々のような形をした小さな臓器です。
体の働きを調整する「甲状腺ホルモン」を作り出しています。
このホルモンは、体温を保つ、心臓を動かす、食べ物をエネルギーに変えるなど、生命維持に欠かせない働きをしています。妊娠中は、赤ちゃんの脳や体の発育にも重要な役割を果たします。
甲状腺の病気には大きく2種類あります
甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)
甲状腺ホルモンが「多すぎる」状態です。代表的な病気にバセドウ病があります。動悸がする、汗をかきやすい、体重が減るなどの症状が現れることがあります。
甲状腺機能低下症(ていかしょう)
甲状腺ホルモンが「少なすぎる」状態です。代表的な病気に橋本病があります。疲れやすい、寒がり、むくみやすいなどの症状が現れることがあります。
妊娠中も治療を続けることが大切です
甲状腺の病気をお持ちの方が妊娠された場合、最も大切なのは妊娠中も治療を継続することです。
「お薬は赤ちゃんに影響があるのでは」とご心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、治療を中断して甲状腺ホルモンのバランスが崩れてしまうほうが、赤ちゃんにとってリスクが高くなります。
甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)、甲状腺機能低下症(ていかしょう)
それぞれの変更点について次に解説いたします。
【甲状腺機能亢進症の方】
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の治療には、甲状腺ホルモンの産生を抑えるお薬が使われます。日本でよく処方されるのが「チアマゾール」です。
妊娠初期はお薬の変更が推奨されています
最新のガイドラインでは、妊娠5週0日から9週6日までの期間は、チアマゾールを別のお薬に変更することが推奨されています。
これは、この時期にチアマゾールを服用すると、まれに赤ちゃんに先天的な異常(チアマゾール関連先天異常)が起こる可能性があるためです。
代わりに処方されることが多いのが「プロピルチオウラシル」というお薬です。
- *妊娠10週以降は、チアマゾールに戻すことも可能です
【甲状腺機能低下症の方】
甲状腺機能低下症(橋本病など)の治療には、足りない甲状腺ホルモンを補充するお薬「レボチロキシン」が使われます。
妊娠がわかったらお薬を増やす必要があります
妊娠中は、母体だけでなく赤ちゃんの発育にも甲状腺ホルモンが必要になるため、普段より多くのホルモンが必要になります。
最新のガイドラインでは、妊娠がわかった時点でレボチロキシンの量を2〜3割増やすことが推奨されています。
また、血液検査で「TSH」という数値を確認し、正常範囲の下限から2.5mIU/Lの間に保つことが目標とされています。
治療を怠ることでのリスク
甲状腺機能亢進症・低下症のいずれの場合も、適切な治療が行われないと、以下のような合併症のリスクが高まる可能性がございます。
母体への影響
- ・妊娠高血圧症候群:妊娠中に血圧が高くなる病気で、重症化すると母子ともに危険な状態になることがあります。
- ・常位胎盤早期剥離:赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう緊急性の高い状態です。
- ・産後出血:出産後に通常より多くの出血が起こることがあります。
赤ちゃんへの影響
- ・流産、早産、低出生体重児(2,500g未満)
これらのリスクを減らすためにも、妊娠中の治療継続がとても重要です。
ご不安なことがございましたら、遠慮なくご相談ください。
