繰り返す流産の原因を見つけるために – PGT-SR検査と染色体検査について
「また流産してしまった…」
そんな辛い経験をされている患者さまから、よく相談をいただきます。
繰り返す流産(習慣流産)の原因の一つに、ご夫婦の染色体に構造的な変化があることがありますので、
今回は、なぜ染色体検査が大切なのか、そしてPGT-SR検査がどのようにお役に立てるのかをご説明いたします。
1. 繰り返す流産と染色体の関係
流産の頻度
- ・1回目の流産:約15%の方が経験
- ・2回連続の流産:約2-3%の方が経験
- ・3回連続の流産:約0.5-1%の方が経験
染色体異常が関わる流産
全体の流産のうち、約60-70%は赤ちゃんの染色体異常が原因です。しかし、繰り返し流産される場合は、ご両親の染色体に原因がある可能性があります。
ご夫婦の染色体異常の頻度
- ・一般の方:約0.2%
- ・2回流産を繰り返す方:約2-5%
- ・3回以上流産を繰り返す方:約4-8%
つまり、流産を繰り返すほど、ご夫婦の染色体に何らかの変化がある可能性が高くなります。
2. どのような染色体異常があるのですか?
均衡型転座
染色体の一部が別の染色体と入れ替わっているが、遺伝子の量は正常な状態。ご本人は健康ですが、お子さまに不均衡な染色体が遺伝する可能性があります。
ロバートソン転座
特定の染色体同士がくっついている状態。こちらもご本人は健康ですが、お子さまに染色体異常が起こる可能性があります。
逆位
染色体の一部が逆さまになっている状態。多くの場合、日常生活に支障はありませんが、お子さまへの影響を考慮する必要があります。
具体例で説明すると
正常な方でも、約500人に1人の割合で、これらの染色体変化を持っています。重要なのは、これらの変化があっても、適切な治療で健康な赤ちゃんを授かることができるということです。
3. なぜ染色体検査が必要なのですか?
検査をお勧めする方
- ☑ 2回以上の流産を経験された方
- ☑ 不妊治療で着床しない方
- ☑ 過去に染色体異常のお子さまを妊娠された方
- ☑ ご家族に染色体異常の方がいらっしゃる方
検査の目的
- ・流産の原因を明らかにする
- ・今後の治療方針を決める
- ・PGT-SR検査の適応を判断する
- ・妊娠した際のリスクを評価する
検査をしないリスク
原因がわからないまま治療を続けると:
- ・同じように流産を繰り返す可能性
- ・適切でない治療を受ける可能性
- ・心理的負担が続く可能性
4. 染色体検査の実際
ご夫婦の染色体検査(G-band法)
項目 | 内容 |
---|---|
検査方法 | 採血(5-10ml) |
結果判明 | 約2-3週間 |
流産胎児の染色体検査
項目 | 内容 |
---|---|
検査材料 | 流産時の胎児組織 |
検査方法 | 組織培養後の染色体分析 |
結果判明 | 約3-4週間 |
保険適用 | 2回目より保険適用あり |
5. 流産胎児染色体検査の重要性
なぜこの検査が大切なのか
流産の原因を明確にできる
- ・胎児側の原因:約70%(主に偶発的な染色体異常)
- ・母体側の原因:約30%(染色体転座、子宮異常、内分泌異常など)
今後の治療方針が決まる
- ・胎児側が原因 → 次回妊娠に向けた一般的な準備
- ・母体側が原因 → 専門的な治療(PGT-SR等)の検討
心理的負担の軽減
「自分のせいで流産したのではないか」という自責の念から解放され、前向きに治療に取り組めます。
実際の症例から
流産胎児の検査で偶発的な染色体異常が判明した場合、次回妊娠では通常の妊娠管理で良好な結果が得られることが多くあります。
6. PGT-SR検査とは何ですか?
PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)の概要
体外受精で得られた胚の染色体を調べ、ご両親の染色体異常の影響を受けていない胚を選んで移植する技術です。
適応となる方
- ・ご夫婦のいずれかに染色体転座がある
- ・習慣流産で染色体異常が疑われる
- ・過去に染色体異常児を妊娠した経験がある
PGT-SRの効果
- ・✓ 流産率の大幅な減少
- ・✓ 妊娠率の向上
- ・✓ 心理的負担の軽減
7. 検査の流れ(ステップ別ご案内)
Step 1: ご夫婦の染色体検査
↓
Step 2: 結果説明と治療方針の決定
↓
Step 3A: 染色体異常が見つからない場合
→ 他の原因検索・一般的な不妊治療
Step 3B: 染色体異常が見つかった場合
→ PGT-SR検査の詳しい説明
↓
Step 4: PGT-SR検査の決定
→ 体外受精・胚生検・染色体検査
↓
Step 5: 正常胚の移植
→ 妊娠・出産
8. 費用について
検査費用の目安
検査項目 | 費用 | 保険適用 |
---|---|---|
ご夫婦染色体検査 | 3-5万円 | |
流産胎児染色体検査 | 5-8万円 | 2回目以降 |
PGT-SR検査 | 約8-40万円 | × |
体外受精費用 | 約40-60万円 |
- ・自治体によってはPGT-SR検査の助成あり
- ・体外受精の保険適用により負担軽減
- ・詳しくはお住まいの自治体にお問い合わせください
9. よくあるご質問
Q: 染色体検査で異常が見つかったら、必ずPGT-SRを受けなければいけませんか?
A: いいえ。検査結果をもとに、ご夫婦の価値観や状況に合わせて治療方針を決めていきます。自然妊娠を続ける選択肢もあります。
Q: 流産のたびに胎児の検査をする必要がありますか?
A: 1回目でも検査は可能ですが自費となります。2回目以降は保険適応になります。
Q: 検査結果が出るまでの間、妊娠を試みても良いですか?
A: はい。検査結果が出るまでの2-3週間、妊娠を控える必要はありません。
Q: 年齢制限はありますか?
A: 染色体検査に年齢制限はありません。PGT-SR検査も年齢による制限はありませんが、卵子の質を考慮して治療方針を決めます。
10. 検査を受けるタイミング
最適なタイミング
- ・流産後の体調が回復してから
- ・次回妊娠の準備を始める前
- ・不妊治療を本格的に始める前
緊急性について
検査自体に緊急性はありませんが、早めに原因を明らかにすることで、適切な治療を早期に開始できます。
一歩前進するための検査
繰り返す流産は、身体的にも精神的にも大きな負担となります。しかし、原因を明らかにすることで、適切な治療への道筋が見えてきます。
大切なポイント
- ・染色体検査は原因究明の第一歩
- ・結果に関わらず、治療選択肢がある
- ・一人で悩まず、医師と一緒に解決策を探す
ご関心をお持ちいただけましたら、ご来院の際にお気軽にご相談ください。