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PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)で反復着床不全を乗り越える:妊娠への希望

近年一つの不安解決策として登場

体外受精において、良好な胚を3〜4回移植しても妊娠に至らない「反復着床不全(RIF:Repeated Implantation Failure)」。この言葉を初めて聞いた時、多くの女性が感じるのは深い失望と不安かと思います。しかし、現代の生殖医療技術の進歩により、この困難な状況を解決する方法が2022年から一つの選択肢として

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)という革新的な検査法が登場しました。

反復着床不全でお悩みの方に向けて、PGT-Aがいかにして妊娠への道筋を明確にし、無駄な治療を減らし、心身の負担を軽減できるかを詳しくご説明したいと思います。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは?

基本的な概念

PGT-A(Preimplantation genetic testing for aneuploidy)とは、体外受精によって得られた胚の染色体数を、移植する前に網羅的に調べる検査です。

従来の体外受精では、見た目の美しさ(形態学的評価)のみで胚を選択していましたが、PGT-Aにより「内面の美しさ」とも言える染色体の健全性を確認できるようになりました。胚の「健康診断」のようなものと考えていただいても良いと思います。

検査の流れ

① 体外受精による採卵・受精
② 胚盤胞まで培養(5〜6日間)
③ 胚生検(栄養外胚葉から細胞を採取)
④ 胚の凍結保存
⑤ PGT-A検査(約2〜3週間)
⑥ 結果に基づく移植胚の選択
⑦ 正倍数性胚の凍結胚移植

判定結果の意味

検査結果は、A〜Dの4段階で判定されます。

・A判定:正常な染色体数(正倍数性胚)- 移植に最適
・B判定:モザイク胚 – 慎重な検討が必要
・C判定:異数性胚 – 移植には不適
・D判定:判定不能

反復着床不全(RIF)の現実と課題

定義と発生率

反復着床不全とは、40歳未満の方が良好な受精卵を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるとされる中で、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない状態のことです。

体外受精治療を受けている不妊女性の15%-20%にこの現象が認められているという事実は、決して珍しいことではないということを意味しています。

原因の複雑性

反復着床不全の原因は様々です。
 1.胚側の要因(60〜70%)
 ・形態が良好に見える胚盤胞でも、38歳では約50%、40歳では約70%に染色体異常がある
 ・見た目では判断できない遺伝子レベルの問題

 2.子宮側の要因(30〜40%)
 ・慢性子宮内膜炎(反復着床不全の約30%に認められる)
 ・子宮内膜ポリープ、子宮筋腫
 ・免疫学的要因

PGT-Aが反復着床不全に与える革命的効果

臨床データが示す成果

日本産科婦人科学会が実施したパイロット試験では、反復ART不成功例、反復流産例ともに、移植当たりの臨床妊娠率はコントロール群に比べて、PGT-A群で有意に高くなったという画期的な結果が報告されています。

着床前染色体異数性検査(PGT-A)によって受精卵の着床率は65.5%以上に向上するというデータは、多くの患者様にとって希望的なものになると思います。

*母体年齢に関係なく一定した妊娠率および一律10%程度の流産率となります
(つまり高齢な方ほど移植ができた場合は、データの数値的な観点としてはメリットがあるとされています)

年齢による染色体異常率の変化

正常な染色体本数を持つ胚の割合は、35-36歳では50%前後であったのに対して、41-42歳では10%未満であることが現実です。

これは年齢とともに妊娠が困難になる生物学的理由を明確に示しており、PGT-Aの重要性を浮き彫りにしています。

心理的負担の軽減

従来の体外受精では、「今度こそ妊娠するかもしれない」という期待と「また失敗するかもしれない」という不安の間で揺れ動く日々が続くことかと思います。

PGT-Aにより、移植前に胚の健全性を確認できることで

 ・無駄な移植回数の削減
 ・心理的ストレスの軽減
 ・より確実な妊娠への道筋の構築

が可能になります。

当クリニックでのPGT-A実施について

適応条件

日本産科婦人科学会の基準に基づき、以下の条件を満たす方が対象となります。

・体外受精胚移植の不成功を2回以上経験している不妊症の方
・流死産を2回以上経験している方

検査前の準備

PGT-Aを受けていただく前に

1.夫婦の染色体検査
2.当院の説明動画視聴
3.専門カウンセリングの実施
4.十分な検討期間の確保

費用について

胚盤胞PGT-A検査(胚盤胞1個あたり):70,000円となっており、保険適用外の自費診療となります。

しかし、無駄な移植を避けることで、長期的な治療費の削減にもつながる可能性があります。

よくあるご質問とその回答

Q1: PGT-Aの精度はどの程度ですか?

PGT-Aの判定精度は80〜90%と推定されています。完璧ではありませんが、従来の形態学的評価のみと比較すると、はるかに高い精度で胚の選択が可能です。

Q2: すべての胚盤胞でPGT-Aを受けられますか?

すべての受精卵が胚盤胞になるわけではなく、胚盤胞まで育つ確率は30〜40%とされています。女性の年齢が高くなるにつれて、この確率は低下する傾向があります。

Q3: PGT-Aで男女の産み分けはできますか?

PGT-Aの結果では性別も判明しますが、通常は実施施設にも開示されません。当クリニックでは男女の産み分け目的での検査は受け付けておりません。

反復着床不全を乗り越えるための総合的アプローチ

PGT-A以外の重要な検査

反復着床不全の原因は多因子性のため、PGT-Aと併せて以下の検査も重要です 。
1.慢性子宮内膜炎の検査 子宮鏡検査と組織学的検査(CD138免疫染色)により診断し、抗生剤治療により改善可能

2.子宮内膜受容能検査(ERA)
238種類の着床関連遺伝子を解析し、最適な移植時期を特定

3.免疫学的検査
Th1/Th2細胞比の測定により、免疫バランスの異常を確認

個別化医療の重要性

現代の生殖医療では、お一人お一人の状況に応じた「個別化医療」が重要です。PGT-Aの結果と他の検査結果を総合的に判断し、最適な治療戦略を立案いたします。

まとめ

反復着床不全は、多くの女性にとって心身ともに大きな負担となる困難な状況です。しかし、PGT-Aという革新的な技術により、これまで見えなかった胚の質を客観的に評価し、より確実な妊娠への道筋を描くことが可能になりました。

重要なポイント
PGT-Aにより移植当たりの妊娠率が大幅に向上
無駄な移植回数の削減で心身の負担を軽減
年齢による染色体異常率の増加に対する科学的対策
他の検査との組み合わせによる包括的治療

当クリニックでは、最新の生殖医療技術について研究を続け、皆様の妊娠をサポートして参ります。反復着床不全でお悩みの方や、 PGT-Aに関するご相談されたい方は、ぜひ一度ご来院の上、ご相談ください。